Myoridge

共同研究

マイオリッジと住友化学株式会社 低分子化合物をスクリーニングにより選定し、間葉系幹細胞用の新規培地組成を開発

株式会社マイオリッジ(本社:京都府京都市、代表取締役社長:鈴木 健夫、以下 マイオリッジ)は、住友化学株式会社(本社:東京都中央区、社長執行役員:水戸 信彰、以下 住友化学)と、マイオリッジの技術を活用した低分子化合物のスクリーニングを実施し、間葉系幹細胞(以下 MSC)を適応対象とした新規培地組成を共同開発したことをお知らせします。

MSC培養においては、長期継代後の増殖能の低下や、細胞治療での有効性の指標となる幹細胞としての性質を安定的に維持できない等の課題が挙げられます。
本共同開発は、低分子化合物を活用してMSCの増殖能を高め、幹細胞としての性質を長く維持することが可能なゼノフリー且つコストの抑えられた培地を開発することを目的としました。無血清培地やアニマルフリー培地の成分として使用される増殖因子はリコンビナントタンパク質が多く用いられますが、リコンビナントタンパク質は高価なだけでなく、温度変化に弱く、また低濃度の溶液中では特に失活しやすく、更に製造元のロット間差もみられることが知られています。そのため、低分子化合物を活用して培地中の増殖因子の使用量を軽減することは、コストだけではなく、品質の安定性においても大きなメリットがあると考えられます。

マイオリッジは、独自の培地成分データベースと探索技術を保有し、これまでに様々な培地をハイスループットに試験・探索することで、自社培地製品の開発だけでなく、再生医療等製品や細胞加工物を開発するユーザー様へ提案型の培地最適化サービスを実施してきました。
住友化学は、再生・細胞医薬事業を、医薬品に関するこれまでの研究開発や、農薬の安全性試験などで培った細胞培養に関する基盤技術を生かせる有望な分野と位置づけており、2022年より、マイオリッジとの資本業務提携を実施しています。
本共同開発では、マイオリッジにおける培地スクリーニングの手法を活用し、独自に設計した低分子化合物ライブラリーから候補化合物を選定し、新規MSC用培地として有用な化合物及び組み合わせを探索した結果、以下に記載の通りMSCの培養に適した化合物mixを見出しました。


【共同開発の成果】
ヒトMSCの増殖を促進する低分子化合物の探索を目的として、独自に設計した3,539種類の低分子化合物ライブラリーについて各種スクリーニング及び評価試験を実施しました。(図1)

図1. 低分子化合物ライブラリーから候補化合物を選定した際のフロー


1次スクリーニングでは、ヒト脂肪由来MSC (AD-MSC)に対する増殖促進効果を検証し、200化合物を選定し、最適濃度も検討しました。(図2)
図2. 1次スクリーニングの代表的な試験結果


2次スクリーニングでは、AD-MSCの増殖促進効果、MSC表面マーカー(CD44、CD73)の評価を行い、有効濃度の評価も加味して10化合物を選定しました。(図3)
図3. 2次スクリーニングの代表的な試験結果


3次スクリーニングでは、複数の化合物を組み合わせて、AD-MSCの増殖促進効果、表面マーカー(CD44、CD73)の評価を行い、各化合物の組み合わせによって有効性が高まることが見出された7種類の有用な化合物を選定しました。(図4)
図4. 3次スクリーニングの代表的な試験結果


さらに4次スクリーニングとして、7種の有用な化合物を2-4種組み合わせた48パターンの化合物mixを用いてAD-MSC、骨髄由来MSC(BM-MSC)の増殖促進効果、表面マーカーの評価を行い、AD-MSC、BM-MSCに適した培地成分として化合物mix 1、化合物mix 2を見出しました。 (図5)
図5. 化合物7種を組み合わせた化合物mixを用いたMSC培養結果


これらの最適化した化合物mixを含む培地を用いて、AD-MSC、BM-MSCの長期継代を行い、表面マーカーの解析 (Positiveマーカー:CD73、CD90、CD105; Negativeマーカー:CD11b、CD19、CD34、HLA-DR)、核型解析、分化誘導 (脂肪、骨、軟骨)を実施し、培地性能を評価しました。その結果、AD-MSC、BM-MSCともに、表面マーカー解析、核型解析、分化誘導 (脂肪、骨、軟骨) のいずれにおいてもMSCとしての特性を維持していました。

本共同開発の成果は、幹細胞の各種機能について、適切にスクリーニングされた低分子化合物によりコントロールできることを示した良い事例であると考えています。我々は本成果を活用することで、増殖効率、マーカー維持、分化能、それらに紐づいた臨床効果等、多種多様なMSCや幹細胞培養の課題を抱えるユーザーに対して、個別化された培地オプティマイゼーションを提案し、細胞治療分野の発展に貢献して参ります。


株式会社マイオリッジ概要
マイオリッジは、国立大学法人京都大学の研究成果を基に設立されたスタートアップ企業で、培地によって細胞のフェノタイプを改変する方法を開発してきました。独自の培地成分データベースと探索技術を保有し、様々な培地をハイスループットに設計できることを強みとして、自社培地製品の製造販売、これまでにない提案型の培地最適化サービス、モデル細胞の作製・受託開発を展開しています。細胞培養の課題解決を通した価値創出をミッションとして、細胞産業の発展に貢献します。